つまりここでブロイラーの言う自閉は,物理的に外界から隔絶していることを指しているわけではない。患者の内面のロジックと常識的なロジックが大きくかけ離れている状態を,自閉と呼んでいるのである。
さらに自閉にはもう一つ重要な意味がある。「自閉症」という場合の自閉である。自閉症とは,発達障害であり,重大な疾患である。世間で誤用されているように,単なる心の持ちようというような,なまやさしい問題ではない。
自閉症は小児自閉症,あるいは早期幼児自閉症とも呼ばれる病気だ。かつては精神分裂病(統合失調症)が小児に発症したものと考えられた時期もあったが,現在は否定されている。自閉症の示す症状は,人間関係への無関心,言語の障害,同一行動の繰り返しなどである。これらの症状は生まれながらのものである。つまり自閉症では脳の基本的なプログラムが生まれつき故障していると言える。自閉症の症状がはっきりするのは三歳頃であるが,その異常な症状は生涯にわたって持続する。
岩波 明 (2006). 狂気の偽装 精神科医の臨床報告 新潮社 p.87
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