過剰診断に関連して,近年,うつ病が多様化したといわれることがある。しかし,これは誤解を招くいい方であると私は考えている。うつ病という病気の表現形が多様化したのか,うつ病という症状群を引き起こす要因が多様化したのかが明らかでないからである。さらには,これまではうつ病と診断されなかった多様な症状群まで,うつ病と診断されている可能性もある。
うつ病が多様化したという場合に,私たちは,うつ病という本体があって,その症状がさまざまな形で現れているというイメージを持っていることが少なくない。うつ病という実体があるという前提にたっているためだが,実際にはうつ病の実体はまだ解明されていない。そのために,DSMでは,ある特定の症状の一群をうつ病と呼ぼうという約束ごとをしている。それが診断カテゴリーである。
大野 裕 (2014). 精神医療・診断の手引き:DSM-IIIはなぜ作られ,DSM-5はなぜ批判されたか 金剛出版 pp.63-64
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