「近ごろの若者は人間関係が希薄だ」などとよく言われます。特に,若者の社会問題が表面化するたび,人間関係が危機に瀕しているからだと,警鐘を鳴らす評論家や教育者が少なくありません。
しかし,状況はむしろ逆ではないかと思うのです。情報化社会の進展により,私たちは瞬時にやりとりができるようになりました。子どもや若者も状況は同じです。しかも,便利なものや面白いものに対する若者の嗅覚には凄まじいものがあります。LINEがここまで普及したのも,リアルタイムで送受信できる便利さに飛びついたに過ぎません。使えないものは淘汰され,使えるものは普及していきます。
しかし,利点ばかりではありません。若者の人間関係は希薄どころか,むしろ過密になっているからこそ,トラブルが絶えないのです。他人に期待を寄せて,それをリアルタイムで確かめられる世界。ここで,私たちは途切れない,途切れることをよしとしないコミュニケーションを強いられています。常に連絡を取り合うことが当然となった世界では,返信をしないことだけで,いとも容易く恨まれてしまうリスクがあるのです。
中野信子・沢田匡人 (2015). 正しい恨みの晴らし方:科学で読み解くネガティブ感情 ポプラ社 pp.147-148
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