政府債務と個人債務を同列に語ることはできない。個人の場合,たとえば住宅ローンの返済を怠れば信用格付けが下がるし,場合によっては家を失うことになるかもしれない。借金があるなら,できるかぎり早く返済する方法を考えなければならない。しかし政務債務の場合は,あわてて一気に返済する必要はない。むしろそんなことをしたら危ない。経済とは運命共同体のようなもので,誰かの消費がほかの誰かの収入につながっている。つまり政府が急激に支出を抑えれば,国民の収入が減り,ものが売れなくなり,企業のもうけが減り,ますます収入が減り……と悪循環が生じて経済が失速する恐れがある。
国の債務管理にとって肝心なのは,債務を持続可能な状態に保つことである。そのためには,国際の名目利子率が名目経済成長率より低いか等しくなければならない。景気刺激策によって税収が増えれば,債務を徐々に減らしていくことも可能になる。しかしイギリスの場合,大規模な歳出削減によって経済が失速してしまった。そしてまさにそのせいで,最新のデータが示すように,支出を抑えたにもかかわらず債務残高は増え続けている。
デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.33-34
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