アジア通貨危機の直撃を受けた国々では貧困率が上がった。しかし社会保護政策の予算を削減した国とそうでない国を比べると,後者の貧困率の上昇は前者ほどではなかった。韓国,タイ,インドネシア,マレーシアで34パーセント下がった。しかし貧困率を見ると,前述のようにインドネシアでは1997年の15パーセントが1998年には33パーセントと急上昇し,韓国でも11パーセントから23パーセントへと上昇したのに対し,マレーシアは7パーセントから8パーセントと小幅な上昇にとどまり,しかもその後は下降した。もともと社会保護政策が弱かったこれらの国では,IMFの勧告に従って緊縮財政をとった国とこれを拒否した国の間ですぐに貧困率の差が現れたと考えられる。
また,緊縮財政による貧困率の上昇は精神衛生面でも国民の大きな負担となった。韓国では失業率が急増し,IMFはI am fired(くびになった)の略だと言われるほどになり,そのあおりで自殺も急増した。韓国の男性の自殺率はその10年前から少しずつ上がっていたが,アジア通貨危機後には一気に45パーセント上昇した。タイでも60パーセント以上上昇し,他の死亡率のなかでも突出して上昇幅が大きかった。
デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.95-96
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