このように,通貨危機後の東アジアは複数の不況対策論の真偽を問う自然実験の場となり,その結果次のことが明らかになった。貧困に陥る危険性が高まった原因は不況そのものにあった。しかしそれが公衆衛生上の大惨事へと発展したのは,食糧費補助や失業者支援の予算が削られたからである。つまり不況の影響をどの範囲で食い止められるかは政策次第ということであり,そのことをマレーシアが示してくれた。マレーシアはIMFや諸外国からの政治的圧力に屈することなく,投機的な資本の流れから国内経済を守り,社会保護政策への支出を増やした。そのおかげで,国民はそれほど苦しまずにすんだ。一方,IMFの処方箋に従って緊縮政策という強い薬を飲んだタイ,インドネシア,韓国では,国民がその副作用に苦しめられた。
デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.98
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