このように,不況が自殺増加の主要因の1つであることは間違いないが,不況でなくても自殺が増えることはあるし,逆に不況だというだけで自殺が増えるわけでもない。イタリアとアメリカの例のように,政府が失業による痛手から国民を守ろうとしなかった場合には,だいたいにおいて失業の増加と自殺の増加にはっきりした相関が表れる。しかしながら,政府が失業者の再就職を支援するなど,何らかの対策をとると,失業と自殺の相関が低く抑えられることもある。たとえば,スウェーデンとフィンランドは1980年代から1990年代にかけて何度か深刻な不況に見舞われたが,失業率が急上昇した時期にも自殺率はそれほど上がらなかった。それは,不況が国民の精神衛生を直撃することがないように,特別の対策がとられたからである。
デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.195
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