そこでわたしたちは,具体的にどういう人々がうつ病の症状で受診したかを調べることにした。取り上げたのは,スペインで不況前と不況期に精神疾患により受診した患者のデータで(不況前の2006年の受診者7940名と,不況期の2010年の受診者5876人),スペイン各地の診療所・病院から集められたものである。今回の大不況で,スペインは世界でも最悪の失業率上昇に苦しめられたが,その間もうつ病に関する調査が一貫して続けられていたので,不況前との比較に大いに役立った。そのデータで2006年と2010年を比べると,大うつ病性障害の症状で受診した患者は受診者の29パーセントから48パーセントに増えていた。また,少うつ病性障害の患者は6パーセントから9パーセントに,パニック発作の患者は10パーセントから16パーセントに,さらにアルコール依存の患者も1パーセントから6パーセントに増えていた。そして,データを多変量解析モデルを用いて分析したと小ろ,これらの精神疾患の増加と最も関係が深い説明変数の1つが失業率であることが明らかになった。また,以前からうつ病だったかどうかや,メンタルヘルスケアを受けやすい環境にあったかどうかなど,他のさまざまな要因を調整しても,この結果は変わらなかった。
デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.197-198
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