こうしてカラスの大量死に始まったベーカーズフィールドの謎が解けた。この都市では,ウエストナイルウイルスが蔓延する前に住宅の差し押さえが蔓延していた。つまり「フォークロージャー危機」が起きていたのである。アメリカの住宅のバブルは2006年にピークを迎え,その後は崩壊へと向かい,2008年までに住宅ローンの債務不履行件数が225パーセントも増えた(2006年から2013年までに600万軒以上の住宅が差し押さえられることになる)。なかでもひどかったのがカリフォルニア州だが,ベーカーズフィールドはカリフォルニア住宅バブルの中心地の1つだったので,バブルがはじけると住宅ローン危機の中心地ともなった。ベーカーズフィールドの住宅ローン債務不履行件数は3倍に跳ね上がり,この増加率は全米の都市のなかで8番目に高かった。住宅所有者のおよそ2パーセントが債務不履行に陥り,人口約30万人のこの都市で5000軒以上の家が差し押さえられた。家が銀行によって差し押さえられると,庭の手入れなど誰もしなくなる。やがて雑草が生い茂り,プールの水は淀み,藻が水面を覆い,蚊にとって願ってもない産卵場所となっていた。
デヴィッド・スタックラー,サンジェイ・バス 橘 明美・臼井美子(訳) (2014). 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 草思社 pp.215-216
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