政治学者アレグィン=トフトは,この疑問につながる奇妙なパターンを発見していた。負け犬がダビデのように戦えば,たいてい勝利する。だがダビデのように戦う負け犬はめったにいないのだ。アレグィン=トフトによると,戦力に極端に差があった紛争202件のうち,弱い側が真っ向勝負を挑んだものは全部で152件——そして119件で敗北した。1809年,スペインの植民地だったペルーは宗主国に反旗を翻して鎮圧された。1816年,グルジア人はロシアに戦いを挑んで失敗した。1817年,インドのピンダリ族はイギリスに抵抗して負けた。1817年,スリランカのキャンディで起きた反乱はイギリスに鎮圧された。1823年,宗主国イギリスと戦ったビルマ人は叩きつぶされた。挙げていくときりがない。1940年代,ベトナムの共産主義勢力は宗主国フランスを苦しめたが,1951年にヴォー・グエン・ザップが通常戦争に路線変更したとたん負けが込みはじめた。アメリカ独立戦争でも,初期にはゲリラ戦術があれほど成果をあげていたにもかかわらず,ジョージ・ワシントンが方向転換してしまった。ウィリアム・ポークは,型破りな戦争を取りあげた著書『バイオレント・ポリティクス』でこう書いている。「ワシントンはイギリス式の軍隊,すなわち大陸軍の整備に勢力を注いだ。その結果,戦況がどんどん不利になって敗北寸前まで追い込まれた」。
マルコム・グラッドウェル 藤井留美(訳) (2014). 逆転!強敵や逆境に勝てる秘密 講談社 pp.36-37
PR