さて,ここからが本題だ。彼には愛してやまない子どもがいる。自分の子ども時代より多くのものをわが子に与えたい——それは親の本能だろう。だがそれは大いなる矛盾でもある。彼がこれほどまでに成功したのは,お金の価値や働く意味,自分で道を切り開く喜びと充実感を,苦労しながら学んできたおかげだ。けれども彼の子どもたちに,同じように学べというのは酷な話だ。ハリウッドの億万長者の子どもは,近所の落ち葉を掃除なんてしない。明かりを消し忘れたからといって,怖い顔をした父親に電気料金の請求書を突きつけられることもない。バスケットボールの試合を見るときも,柱で隠れてしまうような安い席には座らない。
「裕福な家庭での子育ては,世間が思っている以上に難しい」と彼は言う。「貧すれば鈍すというが,富も人をだめにする。野心を失い,誇りを失い,自分は価値ある人間だという感覚まで失われる。貧乏でも金持ちでも,極端なのはだめだ。真ん中あたりがいちばんうまくいくのだろう」。
マルコム・グラッドウェル 藤井留美(訳) (2014). 逆転!強敵や逆境に勝てる秘密 講談社 pp.50-51
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