人は全体像のなかに自分を置くことがなかなかできない。「同じ舟」に乗っている人間どうしで比較しあうだけだ。だから自分が恵まれないとか,不幸だといった感覚も,あくまで相対的なものに過ぎない。これはなかなか深い意味を持つ事実であり,不可解に思える現象もすべてそれで説明がつく。たとえば国別の幸福度調査で,スイス,デンマーク,アイスランド,オランダ,カナダといった国は,自分が幸せだと答えた国民が多かった。対してギリシア,イタリア,ポルトガル,スペインは,幸せではないという回答が目立った。ではこの2つのグループのうち,自殺率が高いのはどちらだろう?答えは幸福な前者だ。これも「憲兵と陸軍航空隊」と同じ図式だ。誰もが不幸せな国では,自分に不幸が降りかかってもさほど落ちこまない。でも周囲がみんな幸せな笑顔を浮かべていたら,不幸がいっそう身にしみるだろう。
マルコム・グラッドウェル 藤井留美(訳) (2014). 逆転!強敵や逆境に勝てる秘密 講談社 pp.79
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