3秒ルール(と総称させていただく)が伝播している文化圏と,そうでない文化圏の境界線がどこにあるのかは判然としないが,そのルーツは13世紀のモンゴル皇帝チンギス・ハーンにあり,「ハーン・ルール」と称されていた(!)という説がある。ハーンは戦いに勝つと祝宴を設け,将軍たちに料理と酒をふんだんに振る舞った。だがその際,「床に落ちた食べ物は12時間以内ならば,食べても安全である。信じたまえ!」と宣言して,みなをそれに従わせたというのだ。ハーンの宴席の食べ物ならそれほど長く落ちていたものでも食べる価値があった,というあたりがこの逸話の真意だろうが,3秒ルールが歴史に痕跡をとどめた例として貴重である。細菌数など調べる手段がなかった当時,「12時間」には「腐敗する前」という根拠があったのかもしれない。だが,ハーンのお膝元だったモンゴル,中国で3秒ルールがほとんど知られていなかったのは残念である。
村上道夫・永井孝志・小野恭子・岸本充生 (2014). 基準値のからくり:安全はこうして数字になった 講談社 pp.48
PR