このように,食の安全は,食文化と大きく関係する。一概に,安全性だけを考慮して基準値で線引をするわけにはいかないのである。多くの日本人は,フグや餅のリスクが高いことは正しく認識できているが,それらは日本の食文化に深く根づいている食材だけに,規制することが難しい。このことは,これらの食材はリスクが高いが,それ以上に,そのリスクが人々に受け入れられる「受容レベル」が高い状態にある,と言い換えることができる。
現在,リスクについての考え方は,「安全」は科学的・客観的に決められることであり科学者が判断するもの,「安心」は心理的・主観的なことであり情報提供や教育によって向上するもの,という「安全・安心二分法」が一般的となっている。ところが,これから本章で示す例ではいずれも,そのような考え方は通用しない。食において科学的な基準値を適用することが,いかに難しいものであるかを感じていただきたい。
村上道夫・永井孝志・小野恭子・岸本充生 (2014). 基準値のからくり:安全はこうして数字になった 講談社 pp.51
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