1999年にWHOが初めて作成したメタボの診断基準では,必須条件は腹囲ではなくインスリン抵抗性(インスリンによって血糖値を下げる効果が弱い状態)だった。内臓脂肪については必須条件ではなく,(1)ウエスト/ヒップ比(男性<0.9,女性<0.85),(2)BMI(≧30),(3)腹囲(≧94cm)のいずれかを満たす場合としている。ところが米国のコレステロール教育プログラム基準では,腹囲(男性≧102cm,女性≧88cm,ただしアジア系では男性≧90cm,女性≧80cm)を含む5項目のうち3項目以上を満たす場合と定義された。さらに2005年に発表された国際糖尿病連合(IDF)基準では,腹囲(地域別の基準値が適用)を必須項目とするほかに,4項目のうち2項目以上を満たす場合として定義されている。
日本でのメタボの基準も,独特のものとなった。とくに腹囲の基準値では男性の「85cm」が厳しすぎること(成人男性のほぼ半数が該当!),世界で唯一,女性のほうが大きな値となっていることが批判の的となった。やや肥満気味の人のほうが痩せた人よりもむしろ長寿であるという統計データが多数存在することから,医薬品業界のマーケット戦略であるとも非難された。
そもそも腹囲と内臓脂肪面積には,相関はあるが,ばらつきも大きい。内臓脂肪面積100cm2以上に相当する腹囲は,男女とも75cm〜95cmと非常に範囲が広いのだ。そのため2009年には腹囲を必須としない新国際統一基準ができ,腹囲(地域別の基準値を適用)を含む5項目のうち,3項目以上を満たす場合と定義された。ところが——この新国際統一基準において,日本人に対して適用されるべき腹囲の基準値はいま,なんと「男性≧90cm,女性≧80cm」と「男性≧85cm,女性≧90cm」が併記された状態になっていて,いまだに決着がついていないのだ。はたしてお腹ぽっこり=メタボなのか,論争はまだまだ収まりそうにない。
村上道夫・永井孝志・小野恭子・岸本充生 (2014). 基準値のからくり:安全はこうして数字になった 講談社 pp.152
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