「危険そうなものからは離れる」は誰にでも直観でわかる,原始的なリスク管理法である。しかし,では「どのくらい距離をとればよいか」と具体的な数字を追求すると,とたんに決めることが難しく感じられる。距離に関する基準値を調べてみると,多くの人が「なんとなく」合意で決めたのであろう,と推察されるものが少なくなかった。そのなかで比較的,根拠が追えるものについて取りあげたつもりである。
「携帯電話と植込み型医療機器の距離」の例では,リスク(避けたい影響)は定義されていたものの,国の指針も鉄道会社の運用も,安全への余裕を根拠なしに大きくとったために,どんなリスクを避けるための対応などかがわからなくなってしまった。「危険物施設との保安距離」の例では,そもそも受け入れられるリスクのレベルが曖昧であり,「ゼロリスク」の想定のもとでしか議論されていなかった。このような考えでは「想定外」に対応することはできない。
将来にわたって,明確な根拠を持って距離の基準値を決めるにはどうすればよいのか,ぜひみなさんも考えてみていただきたい。これからは,“○○cm”などと距離が示された基準値を見つけたら,その根拠について探ってみてはいかがだろう。専門家や行政に直接,尋ねてみるのも面白いかもしれない。
村上道夫・永井孝志・小野恭子・岸本充生 (2014). 基準値のからくり:安全はこうして数字になった 講談社 pp.246
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