科学を広範囲にわたって知らない読者は,公表された論文の多くに計画の誤り,統計分析の欠陥,解釈の間違いなどが含まれていると聞いて,びっくり仰天するかもしれない。しかし自分たちの技術の扱い方について賢明な科学者たちは,それほどは驚かないであろう。実験と分析の方法はつねに改良され,評価の数値もだんだん正確になってくる。しかし,そのことは,以前の研究が,それが発表された時期に科学的でも重要でもなかった,ということにはならない。たとえば,近代宇宙論の分野における道標とも言うべきハッブル定数は,マグニチュードの順序に従って長時間のあいだに数値が変わってきている。だが,これは以前の値が非科学的だったという意味ではない。科学とはつねに変化し,前進するものである。科学が絶対的真理に到達するのは世間一般の人びとの空想のなかにおいてだけである。
H・J・アイゼンク,L・ケイミン 齊藤和明(訳) (1985). 知能は測れるのか--IQ討論 筑摩書房 pp.296
(Eysenck, H. J. versus Kamin, L. (1981). Intelligence: The Battle for the Mind. London, Pan Mcmillan.)
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