知能テストをめぐって吹き荒れる論争の嵐の源は,人種問題である。何らかの知能測定を基にして,あるグループ全体を「劣性」と名づけることは許されるだろうか。彼らの自信,プライド,ある人種の一員であるという同族意識などにこのような打撃を与える正当な理由はいったいあるのだろうか。答はもちろん否である。そして単純に否というのでなく,ジェンセンも私(注:アイゼンク)も,その他の信頼できる心理学者のうちの誰もが,いま記した差別的表現をかつて使ったことはなかった,と付け加えておこう。私たちが指摘してきたのは,グループ差は,それが存在する場合には,重複の多くを包み隠した差であるということ,また重複が存在するゆえに,あるひとつの人種や社会階層を,知能,学力,能力などの指標として用いるのはまったく不可能だ,ということである。誰もがそれぞれ,一個人として扱われるべきであり,評価の基準は客観的なものでなければいけない。
H・J・アイゼンク,L・ケイミン 齊藤和明(訳) (1985). 知能は測れるのか--IQ討論 筑摩書房 pp.316
(Eysenck, H. J. versus Kamin, L. (1981). Intelligence: The Battle for the Mind. London, Pan Mcmillan.)
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