極端な立場においては,神学的反実在論は無神論に近くなる。しかし,いっそう正統的な,神秘主義的な「否定」神学の諸伝統というものも存在する。それは神の超越性とただの人間の限りある認知能力とのギャップを強調し,人間の手になるいかなる定式化であれ,それが神の実在を把握し得ると考えるのは僭越であると結論づける立場である。
この立場が抱える問題の一つは,もし人間の理性が神の属性についてのいかなる真なる言明もなし得ないほどに弱いものであるとするならば,神は存在するという言明もまたたいした意味を持ち得ないように思われる点である。このため,多くの者は,見えるものを超えて見えないものを見ようと努め,現象のベールを剥がして物の真のあり方を発見しようという,不可能とも思える作業を首尾よく成し遂げることを希望し続けてきたのである。
トマス・ディクソン 中村圭志(訳) (2013). 科学と宗教 丸善株式会社 pp.53-54
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