たいていの人は,気の向いたときに一気に執筆する「一気書き」(binge writing)という無駄で生産的な方法をとる(Kellogg, 1994)。書くのを先延ばしにして不安にかられ,ようやくやってきた土用を執筆だけに費やしたりする。それでも,文章はある程度書ける。焦燥感も解消される。けれども,「一気書き」のサイクルはそのまま次週に持ち越される。「一気書き」派が,執筆が進んでいないことで焦燥感や不安にかられている時間は,スケジュール派が実際に文章を執筆している時間より長い。スケジュール通りに執筆していれば,書けていないことに思い悩む必要はない。書く時間を見つけられないと愚痴る必要もないし,夏休みになったらどれほどの文章を書けるだろうと夢想する必要もなくなる。ということで,決めた時間に文章を書いて,文章のことなどさっさと忘れてしまおう。そう,心配すべきことなら,もっと他にいくらでもある——コーヒーを飲み過ぎていないだろうか,犬が裏庭のきたない池の水を飲んでいないだろうか…,とか。でも,いつ文章を書けばよいのかについては心配しなくてよい。そう,明日の朝8時には,机に向かって執筆にとりかかっているだろう。
ポール・J・シルヴィア 髙橋さきの(訳) (2015). できる研究者の論文生産術:どうすれば「たくさん」書けるのか 講談社 pp.15-16
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