この最後の言い訳が,一番滑稽で,理屈が通らない言い訳だと思う。ありとあらゆる理解不能な理由ゆえに執筆スケジュールを立てたくない人たちからよく耳にするのが,この言い訳だ。「内からあふれてくるものがあるときに,一番よいものが書ける」「気がのらないときに執筆しようとしてもしょうがない。書く気にならないと」と彼らは言う。現に執筆できていない人がこれを言うのは,なんとも妙な話だ。喫煙常習者が,煙草を擁護して,煙草を吸うとリラックスできるというのにとても似ているかもしれない。実際には,ニコチンが切れると,緊張感が増すことが知られている(Parrott, 1999)。執筆できなくて困っている人がスケジュールへの嫌悪感を吐露するというのは,要するに,執筆ができない原因に固執しているということだ。書きたいと思った時にのみ書くべきだと考えるなら,まず,以下の点について自問してみるというのはどうだろう。「これまで,その方法で執筆できてきたか」「自分が執筆している量に満足しているか」「執筆時間を捻出したり,やりかけのプロジェクトを完成させたりするのにストレスを感じていないか」「夕方や週末の時間帯を執筆の犠牲にしていないか」。
ポール・J・シルヴィア 髙橋さきの(訳) (2015). できる研究者の論文生産術:どうすれば「たくさん」書けるのか 講談社 pp.25-26
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