液晶ディスプレイといった先端技術の恩恵を受けなくても,タコの皮膚には生まれながらに何百万個もの色素胞という高解像度ディスプレイが取り付けられている。色素胞は色素の入った小さな袋だ。脳からの指令に基づいて周囲の筋肉を伸縮させ,袋を伸ばしたり縮めたりして色を表現する。そのあたりの仕組みは液晶ディスプレイと大差ない。こうした無数の色素胞の作用が組み合わさって,タコの全身の色合いや柄が決まる。これまでの研究で,タコが偏光にも反応できることがわかっている。人間は特殊な眼鏡をかけないと感知できないタイプの振動方向の光だが,海洋生物の多くははっきり見える。
タコの皮膚にはほかにも体色変化に関わる細胞がある。光を選択的に反射してメタリックな輝きを放つ虹色素胞と,すべての光を散乱してしまうので白く見える白色素胞だ。どちらも色素胞の一種だが色素を持たず,光の反射や散乱で色を作り出している。さらに,こうした細胞の下には筋肉が細かく張りめぐらされ,力をゆるめたり入れたりすることで,立体的な質感をこしらえている。
キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.96-97
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