タコが操るのは音波ではない。光を使って天敵の目をごまかす“光の魔術師”だ。「ここがタコのすごいところだ」と,バラデュークは言う。「方程式で解けるような生易しい問題ではない」。たしかにすごいが,信号処理の専門家でなかったら,まさにそこが頭痛の種だと言いたくなる。
海に差し込む光の情報,“光線空間(ライトフィールド)”を数学的に解析しようと,さまざまな研究が行われている。だが,タコは人間がこしらえたお粗末なコンピューター・プログラムや数理モデルのはるか先を行く。どういう仕組みなのか,その場に分散する全方向の光をとらえて,情報を自動的に処理しているのだ。「降り注ぐ日差しの光線空間を理解するのは,きわめてむずかしい問題なんだ。これほどうまく対処できるなんて,たぐいまれな生物だよ」と,バラデュークは言う。
キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.122
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