これは肝に銘じておくべきだ。マダコに逆らってはいけない。それを言うなら,ミズダコだって同じだが。アンダーソンによれば,シアトル水族館でも,夜間警備員が同じようにびしょぬれになったことがあるそうだ。夜の巡回の場合,警備員は暗い展示物のあいだを懐中電灯で照らして歩く。どうやら,この水族館のミズダコは真夜中の安全確認が気に入らなかったらしく,警備員が入っていくたびに水を浴びせかけるようになった。
だが,タコには本当に人間の区別がつくのだろうか?これを確かめるため,アンダーソンとマザーは共同で,“良い警官と悪い警官”戦法を使う実験を考え出した。ひとりはミズダコに近づいて棒でいじめ,もうひとりはミズダコに近づいてから,餌を与えるようにする。2週間かけてこの両極端な対応に慣れてからは,“悪い警官”役が部屋に入ってくると,タコは水槽の隅に身を縮めたり,吸盤をこちらに向けて闘志をみなぎらせたり,相手に水を噴きかけたりするようになった。タコの目を横切るように線が浮かび上がることもよくあった。いらだちや敵意を示すメッセージだ。ところが,餌を持ってくる“良い警官”役に対しては,水面に浮上するか,水面の方へ腕を上げて,いつでも餌をもらえる態勢になったという。
キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.137-138
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