脳による明確なコントロールに加えて,タコの腕は味覚もすぐれている。人類はぽつんとエアポケットに入って進化したので,海水のようなはるかに電気を通しやすい媒体にすっぽり包み込まれた生活がどういうものなのか,なかなか想像しがたい。人間にも嗅覚はあるが,タコのような濃厚な世界の住人は,文字どおり化学的シグナルの海で泳いでいる(そのおかげで,ひとりぼっちのタコは恋の相手を見つけられるのかもしれないが)。
だが,タコは海水に乗って匂いや味が漂ってくるのをおとなしく待っているだけではない。吸盤には匂いや味を感知するセンサーがあるので,タコにはいま手にしているものの味がわかる。脳のかなりの部分がこの情報の解析に専念しているようだ。タコなら手にした瞬間に——というか,吸盤で触ったとたんに——味わえるだろう。
キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.223-224
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