スルメイカとヤリイカに見られたように,一口にイカの群れといってもその規模や中身は大きく異なっている。そして,それは彼らの系統的な位置に対応しているように思われる。別のいい方をすれば,「イカにおける社会性はその系統に現れている」といえるのではないだろうか。複雑な環境に暮らすヤリイカは社会性が高く,それは彼らの示す統制のとれた群れ行動に現れている。一方のスルメイカは,群れという点ではヤリイカよりも構成員の数が多い大規模なものをつくる。しかし,それは外洋を回遊する上で機能する集合体で,必ずしも統制がとれている必要はなく,同じ目的地に向かうもの同士が集まってさえいればよい。
もちろん,大勢の同種が集まっていることで,外敵に襲われた際に自身が犠牲になる確率が低くなるといった群れのもつメリットは享受することができるであろう。しかし,スルメイカの群れは,群れを構成するメンバー個々が互いを認識し合い,それゆrにある種の役割を分担し合えるような,先にアメリカアオリイカで見たようなより発達した機能をもつ群れではないのかもしれない。ひたすら水が広がっているだけの外洋環境では,そのような“小まわりのきく”群れは必要ないと思われるからだ。いうなれば,同じ外洋を回遊するマグロなどの魚群と同じような意味合いの群れをスルメイカはつくっているのかもしれない(もっとも,マグロに見る魚群がはたしてどのような機能をもつものなのか,その詳細は必ずしも解き明かされてはいないので,結論は将来の研究結果を待つべきだが)。
池田 譲 (2011). イカの心を探る:知の世界に生きる海の霊長類 NHK出版 pp.92-93
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