例をあげてみよう。代替医療の圧力団体のおかげで,近年,イギリスでは何千人もの親が,安全性に何の問題もない3種混合ワクチン(麻疹,耳下腺炎,風疹)を子どもに摂取させることを拒否してきた。ワクチン接種と自閉症との間に何らかの関連があるという偽データを信じたせいだ。そしてこの場合,医療に対する不信が麻疹の大流行を招く結果となった。
それでも,開発途上国の例にくらべると,これはまだましだと言わざるを得ないだろう。ナイジェリア北部では,イスラム教指導者がポリオワクチンはイスラム教徒の断種を狙ったアメリカ合衆国の陰謀だという裁断を下した結果,ポリオが再び大流行するようになった。さらに,聖都メッカやイエメンへの巡礼者によって,この陰謀説があっというまに広がった。2007年1月には,パキスタンの2万4000人の親が,過激なイスラム法学者から同じ話を聞かされて,子どもにポリオワクチンを接種させるのを拒否した。
ダミアン・トンプソン 矢沢聖子(訳) (2008). すすんでダマされる人たち:ネットに潜むカウンターナレッジの危険な罠 日経BP社 pp.33-34.
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