哺乳類という意味では,ハンドウイルカはチンパンジーやオランウータンとも同じ仲間といえる。しかし,もう少し分類を細かくみれば,イルカと類人猿はずいぶんと違っている。ハンドウイルカは鯨類という分類群に属している。鯨類,つまりクジラの仲間である。クジラというと,あの潮を噴く大きなクジラを即座に思い浮かべるかもしれないが,実際にはイルカもクジラであり,クジラは歯があるハクジラと,歯がなくて髭でプランクトンを漉して食べるヒゲクジラの仲間に二分できる。イルカはハクジラの仲間で,体のサイズでわけると小型鯨類ということになる。いずれにしても,類人猿とは分類も系統も大きく異なるものである。そもそも,イルカは海という,類人猿から見ればまったくの別世界に暮らしている。そのイルカが,鏡に映る自分を自分だと認識できるというのだ。
このことは何を意味するのか。鏡像自己認識という能力は,一部の類人猿だけがもつ特殊な能力ではなく,分類群を越えていろいろな動物に認めることができる能力,ということを意味しているのだ。実際に,ハンドウイルカに続きほかの動物でも鏡像自己認識が報告されるようになってきた。
池田 譲 (2011). イカの心を探る:知の世界に生きる海の霊長類 NHK出版 pp.202-203
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