ここで1つ説明しておかねばならない。チンパンジーやオランウータンなどの類人猿では,おでこなどにつけられた染料を実験個体が鏡を見つつ手でさわればマークテストに合格,つまりは鏡像自己認識があると判断される。しかし,考えてみれば,これはヒトと体制が似ている動物だからこそできる所作だ。というのも,たとえばハンドウイルカには手がない。仮に,彼らは自分の体にマークがつけられていることを鏡により「発見」しても,マークにさわることはできない。そもそもさわる手を持っていないからだ。この場合は,マークをつけられたイルカが,マークがついていないときよりもより長く鏡を見ていたとか,マークを見るために体の向きを鏡の前で変えたとか,そういうことをマークテストの合格の判定に用いる。つまり,個々の動物の行動特性に合った判定の仕方をするのである。
池田 譲 (2011). イカの心を探る:知の世界に生きる海の霊長類 NHK出版 pp.238
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