ホメオパシーは,健康な人に投与したら同等もしくは類似した症状を引き起こすとされる「レメディ(療剤)」と呼ばれる物質を患者にごく少量投与する。そうすることで,身体の防御機構を刺激して病気の予防や治療をめざすというものだ。ちなみに,これは補完代替医療アメリカ国立センターによるホメオパシーの定義である。アメリカ市民の税金で運営されているこのセンターは,ホメオパシーにきわめて好意的ではあるが,それでも19世紀のいんちき療法のような定義をしている。実際,そのとおりだからだ。
ホメオパシーの法則を考案したのは,ドイツの医師,ザームエル・ハーネマン(1755-1843)で,彼は慢性病の原因は体内を流れるエネルギーの滞りだと信じていた。彼の唱えた「超微量の法則」とは,レメディは微量であればあるほど効果が大きいというものだ。レメディは元の物質(薬草や鉱物)が消えてしまうぐらい徹底して薄める。たとえば,私の家の近くにある薬局ではホメオパシーの硫黄の錠剤に「30C」と表示している。100倍に希釈し,震盪(よく振ること)を30回繰り返したという意味で,硫黄成分と錠剤の比は,1対100の30乗となる。容器に硫黄成分の表示がないのも不思議ではない。硫黄など入っていないのだから。
ダミアン・トンプソン 矢沢聖子(訳) (2008). すすんでダマされる人たち:ネットに潜むカウンターナレッジの危険な罠 日経BP社 pp.116-117
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