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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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人間に近いのは

人類が平和を愛するボノボのような祖先から進化したという考えには,2つの問題がある。1つは,ヒッピー・チンパンジーの物語に心を奪われて本質を見失う危険があることだ。ボノボは絶滅危惧種であり,コンゴ民主共和国の危険な地域の人の近づけない熱帯雨林に生息しているため,これまで知られていることの大部分は,捕獲され餌を十分に与えられた若いボノボの小集団を観察した結果にすぎない。もっと年長で数の多い,餌も不足しがちで行動の自由のある集団を系統的に調査すれば,得られる結果はもっと陰惨なものになるのではと考える霊長類学者は少なくない。野生のボノボは狩りをし,敵意をもって対決したり,ケンカして互いを傷つける(おそらく場合によっては相手を死にいたらせる)こともあることがわかっている。したがって,ボノボがナミチンパンジーより攻撃性が低いことは間違いないものの——相手を襲撃することはないし,群れ同士が平和裡に交流することもある——,だからといって,どんな場合も例外なく平和だというわけではない。
 2つ目はより重要な問題だ。ナミチンパンジー,ボノボそして人類の共通の祖先はボノボに似ていた可能性より,ナミチンパンジーに似ていた可能性のほうがはるかに高い。ボノボは行動だけでなく,身体構造も非常に変わった霊長類である。頭は子どものように小さく,体重も軽いためにオスとメスの性差が小さい。それ以外にも子どもっぽい特徴があり,そのためにナミチンパンジーだけでなく,ほかの大型類人猿(ゴリラやオランウータン)とも異なり,ヒトの祖先であるアウストラロピテクスとも違う。その独特の身体構造は,大型類人猿の系統樹に置いてみると,ボノボが幼形成熟(ネオテニー)によって一般的な類人猿の進化の経路から離れたことが示唆される。ネオテニーとは,ある生物の成長プログラムが,成熟した個体に幼体の特徴(ボノボの場合には頭蓋と脳の特徴)が残るように修正されるプロセスのことだ。ネオテニーは種の家畜化(たとえばイヌがオオカミから分岐するなど)にともなって見られることが多く,自然選択が動物の攻撃性を減少させる際の経路となる。ランガムは,ボノボの進化における主要な原動力は,オスの攻撃性の減少が選択されたことだと主張する。ボノボは大きな集団で食べ物を採り,単独で行動する狙われやすい個体はいないため,ボノボはかなりの変わり者であり,われわれ人間はナミチンパンジーのほうに近い動物から進化した可能性が高いと考えられる。

スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.94-95
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