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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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ナイフが用意されない

アジアにも殺人件数が低い国がいくつかあり,とくに日本,シンガポール,香港といった西洋のモデルを採用した国ではその傾向が顕著に見られる。中国でも殺人件数は人口10万人あたり2.2件とかなり低い。この秘密主義の国のデータを額面通り受け取るとしても,時系列的なデータが存在しないため,それが何千年も続いた中央集権的な統治のせいなのか,現政権の独裁主義的な性格によるものなのかを見極めることはできない。イスラム国家の多くを含む独裁主義国家では,国民に対する監視が行われ,法に違反する者は確実にかつ厳しく処罰される。これらの「警察国家」では,暴力的犯罪の発生率が低い傾向にあるのは驚くに当たらない。しかしここで,中国もまた長期間にわたる文明化のプロセスを経てきたことを示す,きわめて興味深いエピソードがあるので紹介しておこう。エリアスによれば,ヨーロッパにおける暴力の減少と密接に関連するナイフのタブーは,中国ではさらに一歩進んだ形で見られたという。中国では何世紀にもわたって,包丁はもっぱら料理人が使うものとされてきた。食べ物は調理場で一口大にカットしてから供されるため,食卓にナイフが用意されることはいっさいない。「ヨーロッパ人は野蛮人だ。彼らは剣を使って食事をする」という中国人の言葉を,エリアスは引用している。

スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.176
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