若い男性が,女性や結婚によって文明化されるなどというのは陳腐きわまりないと思われるかもしれないが,近代犯罪学ではごくあたりまえのことになっている。ボストンの低所得層出身の非行少年1000人を45年にわたって追跡調査した有名な研究によれば,その後の人生で犯罪を犯すかどうかを左右する要因が2つ見つかった。1つは安定した職に就くこと,もう1つは愛する女性と結婚して家族を養うことだった。結婚による影響はかなりのものだ。独身者の4分の3は成人後,さらに犯罪を犯すようになるが,結婚した者では3分の1にすぎなかった。この違いだけでは,結婚によって犯罪から遠ざかったのか,犯罪の常習者は結婚することが少ないのか,どちらかはわからない。だがこの研究で,社会学者のロバート・サンプソン,ジョン・ローブ,クリストファー・ワイマーの3人は,結婚が実際に男性たちを平和化する要因になったと見られることを示している。男性を結婚に向かわせる典型的な要因をすべて一定に保ったとき,結婚した男性はその直後から犯罪を犯す可能性が低くなることが明らかになったのだ。
スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.204-205
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