16世紀末までに,イングランドとオランダでは軽微な犯罪の罰として,拷問や四肢切断に代わって刑務所への収監が行われるようになった。だが,状況はさほど大きく改善されたわけではない。囚人は自分の食べ物や服,藁を自分で買わねばならず,もし本人にも家族にも払う能力がなければそれらは支給されない。また金を出さないと,内側にトゲの付いた鉄の首輪や,足を床に固定する鉄の棒を外してもらえないという慣行もあった。ネズミなどの害獣や害虫,暑さと寒さ,排泄物,腐った食べ物……これらは単に獄中生活を悲惨なものにしただけでなく,疫病を蔓延させ,刑務所を事実上の死の収容所にした。ろくに食べ物を与えられていない囚人たちが,起きている時間のほとんどを木のやすりがけや石割り,踏み車を踏むなどの労働を強制される刑務所も少なくなかった。
スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.275-276
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