今日,死刑は人権侵害であるという見方は広く定着している。2007年,国連総会は死刑の執行停止を求める議決(法的拘束力はもたない)を賛成105,反対54,棄権29で採択した。1994年,1999年にも同様の決議案が出されたが採択にはいたらなかった。決議に反対した国の1つは合衆国である。他のほとんどの暴力の形態と同様,合衆国は西側先進国のなかで「異常値」的な位置を占めている(もっとも全50州のうち北部を中心とする17州では死刑は廃止され——うち2州では過去2年以内に廃止——,18州は過去45年間死刑が執行されていない)。だが悪名高いアメリカの死刑でさえ,現実的というより象徴的な意味合いが強い。図4−4に示されたように,合衆国の人口に対する死刑執行数の比率は植民地時代以降大幅に減っており,西洋社会全体で他の多くの制度化された暴力が減少した時期にあたる17世紀から18世紀にかけて,最も急激に減っているのだ。
スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.282-283
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