モンゴル帝国初代皇帝チンギス・ハンにとって,人生の快楽とは次のようなものだった。「男にとって最大の歓びは,敵を征服し駆逐することだ。彼らの馬に乗り,財産を奪い,彼らの愛する者が涙を流すのを見ること,彼らの妻や娘を抱くことだ」。それがただの大言壮語ではなかったことを,現代の遺伝学は証明している。今日,かつてのモンゴル帝国の版図に住む男性の8パーセントは,チンギス・ハンの時代にまで遡る同一のY染色体をもっており,このことは,それらの男性がチンギス・ハンやその息子たち,そして彼らに抱かれた多数の女性たちの子孫であることを示している可能性が高い。これに勝る手柄をあげるのはかなりむずかしそうだが,モンゴル帝国の再興を試みたテュルク人のティムール(別称タメルラン)は健闘している。ティムールは西アジアの都市を征服するたびに何万人もの捕虜を殺害し,記念として頭蓋骨で尖塔を立てた。あるシリア人は,1500個の頭蓋骨でできた塔を28も目撃したという。
スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.359-360
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