たとえばあなたの住んでいる場所では,1年中いつでも落雷の可能性があるとしよう。落雷はランダムにどの日でも同じ確率で発生し,その頻度は1ヵ月に1度の割合だとする。さて月曜日の今日,あなたの家に雷が落ちた。次に落雷がある可能性が最も高いのはいつだろうか?
答えは「明日」の火曜日である。たしかに確率はさほど高くはない。およそ0.03(月に1回)だ。では次の落雷が明後日の水曜日になる確率はどうだろうか。そうなるためには2つの条件が必要だ。まず水曜日に雷が落ちることで,確率は0.03。もう1つは前日の火曜日に雷が落ちないこと——さもないと「次」は水曜日ではなく火曜になってしまう。この確率の計算式は,火曜日に雷が落ちない確率(0.97つまり1マイナス0.03)×水曜日に雷が落ちる確率(0.03)となり,計算結果は0.0291で火曜日に落ちる可能性より少し低くなる。では木曜日ならどうだろうか。それには火曜にも水曜にも雷は落ちず,木曜に落ちることが必要だ。すると0.97×0.97×0.03で,確率は0.0282となる。金曜日はどうか。0.97×0.97×0.97×0.03で0.274。このように1日進むごとに,確率は下がっていく。「次に落雷がある日」になるには,それまで雷の落ちない日がずっと続く必要があり,日数が多くなるほど,その可能性は低くなるからだ。厳密な言い方をすれば,確率は指数関数的に低下する。次の落雷が今日から30日後に起きる確率は,0.97の29乗×0.03で,1パーセントをほんの少し上回るだけだ。
だが,これを正しく理解している人はほとんどいない。私はインターネットで100人にこれとおなじ質問を——「次に」の文字を見落とさないように,わざわざイタリック体にして——してみた。結果は,「どの日も確率は変わらない」と答えた人が67人だった。これは直観的には正しいように見えるが,誤っている。もし次に落雷がある日になる確率がどの日でも同じなら,1000年後でも1ヵ月後でも変わらないということになる。つまり落雷がない日が1000年続く可能性と,1ヵ月続く可能性が同じということになってしまう。残りの回答者のうち19人は,最も確率が高いのは1ヵ月後と答えた。「明日」と正しく推測できたのは,100人中たった5人だった。
スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.368-369
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