中には想像力に屈してしまった人たちもいる。1930年代にロンドン大学の教授をしていたキャロライン・F・E・スパージョンはみんなから尊敬され,ふだんは分別をわきまえているのに,シェイクスピアの書いたものを入念に読めば,作者の外見が判断できると思いこんでしまって(『シェイクスピアの修辞的表現とそこからわかること』という著書の中で)自信たっぷりにこう書いた。「彼は小柄ながらもがっしりとした体格で,幾分細身ではあるが,驚くほど均整のとれたその肉体の動きはしなやかで軽く,眼光は俊敏にして鋭く,機敏でたくましい行動は見る者の目を楽しませた。おそらく肌は生まれたてのように白く美しく,若い頃には顔に色も出やすくて,感情がすぐ表に現れたことだろう」
一方,人気のあった歴史家アイヴァー・ブラウンは,シェイクスピアの芝居に膿瘍などのできものがよく出てくることから,シェイクスピアは1600年以降は「悪性のブドウ球菌に感染していて」次から次へとできるできものに苦しんだと結論づけた。
ビル・ブライソン 小田島則子・小田島恒志(訳) (2008). シェイクスピアについて僕らが知りえたすべてのこと 日本放送出版協会 p.28
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