勝者がすべての利益を独占するような統治が行われている国で,石油や金,ダイヤモンド,戦略的鉱物などの偶発利益を生む資源を政府が統制すると,内戦の起こりやすさは倍増する。こうした資源は恩恵どころかいわゆる資源の呪い,あるいは豊かさの矛盾,愚か者の金などと呼ばれるものを生み出す。再生不能で独占されやすい資源が豊富な国は,経済成長が遅々として進まず,政府は無能で,暴力が多発する傾向にある。ベネズエラの政治家ファン・ペレス・アルフォンソがいみじくも言ったように,「石油は悪魔の排泄物」なのである。こうした資源が国によっては呪いになりかねないのは,政府高官,時には地域軍閥など,それを独占する者の手に権力と富を集中させるからだ。指導者は金のなる木を独占するためにライバルを蹴落とすことに躍起となり,社会全体を潤して相互義務で結ぶような商業ネットワークを促進する動機も意欲もない。コリアーは経済学者ダンビサ・モヨや他の政治評論家とともに,これに関連するパラドクスに注意を換気している。善意の有名人が大好きな海外援助もまた,第二の呪いになりかねない。援助をしても,持続可能な経済インフラの構築に役立つどころか,窓口となる指導者の富と権力を増すだけだからだ。さらに,コカイン,アヘン,ダイヤモンドなどの高価な禁制品は,冷酷な政治家や軍閥に不法な飛び地や流通経路を確保する隙を与えるので,第三の呪いになる。
スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.541-542
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