私はこれまで予言をすることには慎重を期してきたが,女性への暴力は今後数十年のうちに全世界で減少する可能性が非常に高いと思う。この圧力は,上から下へも,下から上へも,かけられていくだろう。上の部分では,女性への暴力が世界に残っている最も火急の人権問題であるというコンセンサスが国際社会のなかで形成されてきている。女性に対する暴力撤廃の国際デー(11月25日)などの象徴的な取り組みをはじめ,国連やその加盟国のような公職の権威からの無数の宣言もなされている。そうした手段に強制力はないが,奴隷制や捕鯨や海賊行為や私掠船巡航や化学兵器やアパルトヘイトや大気圏内核実験に対する糾弾の歴史が,国際的に辱めを与える運動はいずれ長い年月のうちに効果を生むことを示している。国際女性開発基金の事務局長が言っていたように,「現在では,かつてないほどの国家的な計画や政策や法律が整備されており,政府間領域でも勢いが高まっている」のである。
スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 下巻 青土社 pp.72
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