リベンジが抑止力として機能できるのは,報復者が報復するであろうことが広く知られていて,なおかつその報復者に,たとえコストがかかろうと必ずや報復を実行する意志がある場合だけだ。そう考えると,なぜリベンジの衝動がこんなにも拭い難く,激烈で,ときには自滅的でさえある(自ら裁きをくだそうと,不実な配偶者や無礼な他人を殺したりする)かの説明がつく。さらにいえば,リベンジが最も有効となるのは,報復者から罰がくだされることを報復されるターゲットが知っていて,それゆえに,報復者となるかもしれない相手へのふるまいを考え直せるときである。だから報復者の切実な願いがかなえられるには,ターゲットが罰せられる対象になっていることを自ら知っていなくてはならない。このような衝動は,司法理論で言うところの特別抑止機能を果たす。つまり犯罪者本人に罰をくだすことによって,犯罪者の再犯を防ごうという考えである。
スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 下巻 青土社 pp.293
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