多くの人は,「進化」という言葉を文化的変化(歴史の変遷)と生物学的変化(世代を経ての遺伝子頻度の遷移)の両方の意味に不用意に使う。たしかに文化的な進化と生物的な進化は互いに作用しあうこともある。たとえばヨーロッパやアフリカの部族が乳汁を得るために家畜を飼う習慣を採用したところ,彼らは大人になっても乳糖(ラクトース)を消化できるように遺伝子変化を進化させた。それでも,この2つのプロセスは別物である。原則として,この2つはつねに区別することができる。たとえば,ある社会で生まれた赤ん坊を養子に出して別の社会で育てる実験をしてみればいい。もしどちらかの社会に特有の文化に対応して生物学的進化が起こっていたなら,養子先の社会で成長した子どもは,その社会で生まれた子どもとは平均して何かが違っているはずだ。
スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 下巻 青土社 pp.430
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