ブリガムの新たな見解は,テストを廃止すべきという含みを持っていたわけではない。ブリガムは「何か不思議な力の測定」ではなく,「定型化した面接考査の方法」としてテストを信頼しており,SATの作業も続けた。新たな見解の意図は,計量心理学者が自然に持つ熱意にブレーキをかけなければならないという点にあった。ブリガム自身の経験から見て,計量心理学者はつねに,自分のテストが本質的で内在的な人間の資質を測定ししていると主張し,時期尚早な段階でもテストを広く使ってもらうよう求め,結果を誇張して吹聴する恐れがある。「実行が常に理論に先行した」とブリガムは記す。また「……これは新しい分野で,……正しいことはごくわずかしか行われていない。新情報が入り新手法が開発されると,これまで行われてきたことは,ほぼいっさいがでたらめに思えてくるのだ」と。戦時中,陸軍に大規模なテストを実施したこと(平常時は個人の望みを犠牲にすることが求められる)と,平和時の教育に同じテストの再現を試すことはまったく違う。ブリガムは「人道的な機関たる大学は,個人に対して誤りを犯すことが許されない」と書いた。
ニコラス・レマン 久野温穏(訳) (2001). ビッグ・テスト:アメリカの大学入試制度 知的エリート階級はいかにつくられたか 早川書房 pp.45
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