争いの真の勝者はIQテスト派だ。テスト期間の統合が具体化し,SATが米国の大学志願者のテストとして祭り上げられ,米国は世界最大のIQテスト利用国となった。
しかし勝利には隠れた危険が伴う。コナントは知らぬ間に,根本的な矛盾の下地を作った。高いIQの持ち主だけでなく,全員に対して公的に絶対の機会均等を保障する。これこそ米国社会の中心的な前提であるという考えが神聖視されるのに,コナントは手を貸したのだ。他方では,共通知能テストの点数が表す内面的な価値と思われるものに従って,人間をランク付けするシステムを創りだした。人びとの社会的地位——富と名誉——は共通知能テストの点数をもとに配分された。ここに根本的矛盾がある。すなわち,機会の拡大が約束されながら,大半の人々は人生の初期のある時点で機会が制限されるという現実があるのだ。
ニコラス・レマン 久野温穏(訳) (2001). ビッグ・テスト:アメリカの大学入試制度 知的エリート階級はいかにつくられたか 早川書房 pp.82
PR