家計への教育費負担を軽減し,教育の格差を是正するためには,授業料を下げたり,奨学金を充実させることが有効であることはすでに述べたとおりである。ほとんどの先進国では,返済する必要のない給付奨学金制度がある。これに対して,現在の日本では,学部段階では,授業料免除以外に公的な給付奨学金はない。しかし,現在の日本の公財政の状況を考えると。税の引き上げなどをしなければ,給付奨学金のような教育に対する公財政支出を増やすことは難しい。この隘路に対して,貸与奨学金(学資ローン)が有効であると考えられている。実際過去10年間,日本学生支援機構の有利子貸与奨学金は爆発的に増加している。しかし,現在のような低金利時代にはあまりピンとこないかもしれないが,金利が上がれば有利子奨学金の場合には利子の負担もばかにならないことも考慮しなければならない。
また,奨学金がもし単なるローンとりわけ民間金融機関ローンであれば,営利のためには,利子率にはリスク・プレミアムを加えることになり,その分だけ返済額は大きくなる。これが低所得層にとって不利になることは言うまでもない。この点への配慮も今後の大きな課題であろう。
さらに,これまで明らかにしてきたように,将来のローン負担を恐れて貸与奨学金を借りない親や学生も存在することを示している。この問題に対処するためには,目的と対象を限定した給付奨学金が必要ではないかと考えられる。アメリカのベル給付奨学金のように,経済的必要性にのみ基づくニードベースの奨学金が,教育の機会均等の点からは最も有効であると考えられる。しかし,現在の日本の状況では,完全なニードベースの給付奨学金は公正の観点から受け入れがたいのではないだろうか。日本学生支援機構の奨学金(貸与)は,日本育英会の時代から育英(メリットベース)と奨学(ニードベース)の2つの基準を併用してきた。この点からもニードベースだけでなく,これにメリットベースの基準を加えた給付奨学金が日本の現状にふさわしいと考えられる。これまでのエリート型の「育英奨学」に代わる高等教育の大衆化に対応した奨学金政策が必要であろう。
小林雅之 (2008). 進学格差ー深刻化する教育負担ー 筑摩書房 p.174-176
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