チョーンシーが初めてロールシャッハ・テストのことを耳にしたときは,詳しい教授がハーバード大学にいるのを突き止めた。ロールシャッハ・テストは,インクのしみのついた10枚の白いカードを見せて被験者の想像力をかきたて,何に見えるかと聞くものである。チョーンシーは教官クラブの昼食に教授を誘い,さらに詳しい情報を得ようとしたが,ロールシャッハを入試に使うのは無理だと止められた。専門家が長時間かけて,1人1人に実施しなければならないからだ。やはりハーバード大学にいたころ,学界から軽蔑されていた有名な心理学者,ジョンソン・オコナーの業績にも興味を抱いた。オコナーは創造性に関するテストを開発した。被験者に「海水面が6フィート上昇したらどうなるか」とか「樹木がすべて,2フィートより高く育たなければどうなるか」といった質問をする。オコナーは回答の単語数を数え,最も語数の多い被験者が,創造性において最も高い点をとるようにした。テスト界における初期の多くの人たちと同様,オコナーは,実験による裏付けを集めて研究結果を確立する気がなかったため,この創造性テストをハーバード大学で使うのは不可能だった。しかしチョーンシーはいつも,オコナーは何かに気付いたと感じていた。
ニコラス・レマン 久野温穏(訳) (2001). ビッグ・テスト:アメリカの大学入試制度 知的エリート階級はいかにつくられたか 早川書房 pp.108
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