アファーマティブ・アクションは,公衆の目に触れない論争も巻き起こした。たとえば,ニクソン政権の公文書館には,6つのユダヤ人団体が1972年共和党全国大会の直前に提出した,長い覚書がある。覚書は,大学が黒人に有利なとりはからいをしている33の例を挙げて(したがって白人に打撃を与えていると)抗議した。
メリトクラシーの登場は,アイビーリーグの大学や,アイビーリーグ出身者を雇う雇用主の多くが1920年代から維持してきた,非公式だが厳格なユダヤ人受け入れ枠(割り当て)を終わらせることになっていた。しかしユダヤ人がメリトクラシー内で大きく躍進する方向に万事整った今ごろ,黒人支援を装う形で,割り当てが戻ってくるように見えた。それは,大学が黒人学生の比率に下限を設けることから,ほんの小さな一歩を踏み出すだけで,ユダヤ人学生の比率に上限を設けるところに至るように映った。もし,各グループの人口比が目標なら,ユダヤ人はどうなるのか。ユダヤ人は米国の人口の3%にとどまるが,アイビーリーグの学生数に占める比率は,割り当て制の最盛期でも同水準をはるかに超えていた。大学入学はゼロサムゲーム。入学定員のうち,厳密にテストの得点や成績によるのではなく,黒人や中南米系のため予約される定員が増加すればするほど,ユダヤ人のために残される定員は減る,とユダヤ人団体が推測するのも難しい話ではなかった。
ニコラス・レマン 久野温穏(訳) (2001). ビッグ・テスト:アメリカの大学入試制度 知的エリート階級はいかにつくられたか 早川書房 pp.248-249
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