学生は,基本的に1日に1学科だけを学ぶ。なぜかと言うと,先生がいなかったからである。ハーバードに限らず,イェールでもプリンストンでも,数人の若い助手を他にすれば,専任の教員は長いこと学長1人だけで,学長は全学年の全学科を担当しなければならなかった。これはかなりハードな責務である。
授業内容を見ると,伝統的なリベラルアーツの三学四科を基本として,ルネサンス期に加えられた三哲学(自然哲学,道徳哲学,形而上学),それに古代東方言語で成り立っていることがわかる。授業は午前中だけで,午後は各人の読書や自習にあてられた。時間割のサンプルも残っている。月曜日と火曜日には,1年生は論理学,2年生は倫理学か政治学,3年生は算術と幾何学あるいは天文学を学ぶ。水曜日は全学年がギリシア語,木曜日はヘブライ語かアラム語かシリア語を学ぶ。金曜日は修辞学である。これらをすべて担当できる教授は,よほどの者でなければならなかっただろう。明らかに,授業内容の焦点は,聖書がきちんと読めて解釈できるようになることにあてられている。
森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.37
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