プロテスタント教会には,カトリックのような修道院も存在しない。修道士として出発したルターは,あえて元修道女と結婚し,世俗社会に暮らす者にも修道者と同じように神に仕える道があることを示した。教科書風にまとめるなら,これがマックス・ヴェーバーの論じた「プロテスタント倫理」を生み出してゆくことになる。かくして,プロテスタントが圧倒的な主流派であったアメリカでは,「平等」という価値観が他のどの国よりも強力な原理となり,それが民主主義の原則とも適合してさらに強められる結果となった。
個人だけではない。国家としてのアメリカ合衆国の独立も,この「平等」原理に基づいて進められた。イギリスの圧政に抗してトマス・ジェファソン(1743-1826)が起草した独立宣言には,「すべての人は平等に創られた」とある。本国人と植民地人との間に,住む所によって不平等が生じている事態を許さない,という意味である。イギリスという国家がそういう平等を実現できないなら,独立して別の国になるしかない。アメリカは,平等を求めて独立したのである。独立宣言のこの言葉は,福沢諭吉の「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」という言葉へと翻案され,やがて日本でも知られるようになった。
森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.96-97
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