ホフスタッターは,ジャクソン大統領の時代を「ジェントルマンの凋落」と特徴づけている。それ以前は,アダムズ家に代表されるような上品で教養ある貴族的人物が政治を動かしていたのに,大衆民主主義に押されてジェントルマンが不要になってしまったからである。「不要になった」というよりも,「不利になった」と言うべきかもしれない。上流階級の生まれであるとか,知識人であるとかいうことは,むしろマイナスに数えられるようになった。時代の要請は,「下層階級の人びとの好奇心を刺激し,享楽の欲望を満たし,支持をとりつけるために低俗で野卑なものを提供すること」であった。反知性主義とは,このような背景をもった大衆の志向性である。そして,その同じことが政治の世界だけでなく,宗教の世界にも起こってゆくのがアメリカである。
森本あんり (2015). 反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体 新潮社 pp.167-168
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